製造番号

『そして俺達には十一桁の番号がつけられた。機械の製造番号としか思えないのは、きっと俺だけではないだろう。
 一つの国から見たら、俺達なんて歯車の一つにすらならない。それ位解っている。捨て駒なのだ。捨て駒の製造番号。
 そう言っているとチェスを思い出す。白と黒に彩られた盤の上に行われる小さな戦争。ルールはシンプルで、相手の「キング」という一番強い駒を倒せば勝ち。その為ならばいかなる被害をこうむっても構いはしないというゲームだ。
 その駒の中で一番弱い位置にあるのがポーン。数が多く、キングを守る為に命を捨てる事もあるそうだ。…勿論キングを守る為なら、他の強い駒でも殺していい。そんなゲーム。
 そして俺達はポーン。国というキングを守る為に無尽蔵に作り出されて殺されていくポーン。そんな気分だ。』

『そう言えば、クローン牛が作られたと言って騒いでいた事があったけど、それ以降の情報は俺達に入って来ていない。
 せいぜいクローン羊誕生とかクローン猿誕生とか、その程度の話だ。しかも最初にクローン牛を作った時とは違って、人々の関心はもう集まらない。
 こうやって熱が冷めた時を狙って、誰かが人間のクローンをこっそり作っているかもしれないな。なんて事を思ったりする。
 もしも人間のクローンが作られるようになったら、俺達の何が変わるんだろうか。』


 久しぶりに、俺は過去の自分の書いた日記を見ていた。それは気が向いたら書くような状態で、決して日記とは言えないようなものだったが…。
何だかそれを見ているうちにまた日記が書きたいという衝動にかられている自分がいて、しかも気が付いたらそのノートを買う為に家を飛び出しているのだから笑えてしまう。
「どうしたんだ。」
 家を飛び出してすぐ、隣の家の裕也に会った。こいつと俺はどこか似ている所があって、良くいろいろな事について話し合ったりしている。
「買い物。」
 一言そう言って、俺は近くの店へ向かって歩き出した。と、後ろから軽く肩を叩かれる。
「俺もついていく。」
「暇人。」
「そういう事。」
 俺の嫌味を軽く受け流して、裕也は横に並んで歩き出した。
「なぁなぁ、知ってるか。」
 最初に知っているかと問われても、何を?としか答えられない。
「何をだよ。」
「ニュースでやってたけど、どうやらこの国も戦争やるみたいだよ。」
「へぇ。いつかやるんじゃないかと思ってたけど、こんなに早いなんてな。」
戦争になったら国民を無理に巻き込むと言う法律ができて三ヵ月半。俺の予想じゃ、五ヶ月を過ぎた頃だと思っていたのに。
 世論に叩かれるのに慣れてしまったのか、それともそんな事気にしないようになったのか。…どちらかだろう。
「結構昔にもこういうのあったよな。確か……名前は忘れたけど外国のテロ事件があった後、手伝う為に作ったヤツが。」
 俺の記憶が確かなら、の話だけれど。
「あぁ、あれね。あの時は反対反対ってみんな躍起になってたけど、今回のはね…。又か。って感じでおしまいだ。慣れって恐いな。」
「あれをもっと悪くしたのが今回の法律だろ。」
「まして今回はこの国の一存で作ったからね。早い話、前々から狙っていたんだよ。」
 その言葉を言った時、裕也の目がギラリと光った。
「………何をだ。」
 すぐに聞くのは裕也の思い通りに動いているような気がして嫌なので、暫くの間をあけて俺は問い掛けた。
「戦争ができる国を作る事をだよ!」
待ってましたと言わんばかりに裕也が言う。
 通りすがりの男性が、俺達をまるで異様な物を見るような目で見ていた。しかし、俺も裕也もそんな事は気にしない。なかなかに興味深い話だからだ。
「全て、予定したシナリオ通りに進んでいるのか。」
 俺達はポーン。無尽蔵に作り出されて、戦って、死んでいく。それだけのポーン。
「そうだね。抵抗する者には、家族全員に懲役二年以上または罰金。って法律なんだから。」
 そして、異様なほどに愛国心を強調した教科書が増えてきて、学校の教育も戦時中と同じような状態になってきたと言われている。
 俺達は周りの目を気にする事無く、他の人が聞いたら異様としか思えない会話を続けた。


『クローンは全く同じ生き物を人工的に作り上げる事。俺はそう思ってる。
 もしも俺と同じ形で同じ思考を持つ物がいるとしたら、俺のここにいる意味ってなんだろうか。例え俺が死んだとしても、そいつが入り込んでしまえば、それを知らない人達はそれに気付かない。俺は死んでいるのに死んでいない事になる。
 こんな難しい事を考えていると、何だか頭がおかしくなりそうだ。』

『笑える事に、この国は外国へ戦争を仕掛けた。とうとうやったか。やれやれ。
今戦争に行けば、その人の家族に多額の金が入る。その売り文句で戦地に赴いた人数は十万を越したと言われている。不景気だったからだろうか。
そして、この国は戦いに圧勝した。今は次に戦争を仕掛ける国を探しているらしい。』

『戦争万歳と国民が高らかに謳うようになった。抵抗しても無駄だし、戦争は平和ボケしたこの国にとって新しい娯楽と化している。
 昨日のTV番組の内容は、何人敵国の人間を殺して、どれくらいを制圧したのかだ。しかも、この国がどれくらいを征服できるかを使った賭け事まで始まってしまっている。勿論政府公認で。
 俺は、この国はおかしいと思う。世界が異常なのか、俺が異常なのか。』

 それから時は過ぎて、俺は久しぶりに裕也に会った。本当は色々話したかったけれど、あいつも忙しそうだった。それに、あれはもしかしたら裕也じゃなかったかもしれない。遠くにいたから俺には判別できなかった。
 驚くかもしれないが、戦争はもう始まっている。そして、俺達はそれに巻き込まれていった。あの時俺達が話していた事が本当になってしまったのだ。
 最初は行きたい奴だけを行かせるという方法だったけれど、そのうちに景気が回復してきてしまい、志願者がいなくなった。だから俺も無理に戦地へ連れてこられた訳だ。
そいつらを閉じ込めるのは掘っ建て小屋。例えその建物から逃げたとしても、帰り道なんてありはしない。ここは遠い国なんだ。
俺の他にも無理に戦地へと運び込まれた奴らが溢れている。そいつらはみんな精気を失ったような表情で、自分の武器を磨いたりしている。そして俺はというと、その中で日記を書いていた。

『今この文章を書く事すら、本当は意味がないのだ。俺は死期を悟っているし、その時にはこの文章すら消去されているであろう事も予想している。
 それなのに、書き続けている。最後の抵抗なのかもしれない。
戦争で戦死しろと上官が言う。早い話、処分に困るのだ。この国がクローンを作った事とか、核兵器を隠して作っていたとか。……俺達はそれの生き証人になってしまう。
だから俺達は戦争で生き残っても殺されるんだろう。まぁとにかく、少しでも長く生き続けてやろうと思っている。』

 日記を書き終わってもまだ休憩時間はある。何か面白い事はないだろうかと辺りを見回すと、裕也がいた。
「お、裕也!」
 俺は、銀色のナンバープレートを首から下げた裕也に手を振った。ここにいる奴は全員プレートを首に下げている。それが名札になっているのだ。
どうやら向こうもこっちに気付いたらしく、人懐っこい笑みを浮かべてこっちへ来た。
「久しぶり。」
「この生活には慣れたか。」
「まだまだだよ。」
 確かに、慣れるのは困難だろう。しかし、それは戦地だからという理由だけではない。

 俺は周りを見回した。そこには沢山の人。そして、沢山の裕也。沢山の俺。沢山の同じ顔の人間達。

 さっきだって、裕也と同じ形をした奴がいた。首にかけているナンバープレートの番号を確認しなければ間違えてしまう所だったのだ。
「今になって、やっと十一桁の番号の意味が解ったよ。」
「俺もだ。」
 俺の首にも、銀色のナンバープレートがかかっている。その番号だけが、この俺と他の俺との区別をつけているのだ。
早い話が、あの時付けられた十一桁の番号は、人間のクローン達専用の識別コードだった訳だ。







(c)Kyouzaki