あれから何分がたっただろう。
俺とアリスは口論をしていた。しかも終結が見込まれない水掛け論である。
「だから、見てないって言ってんだろ!」
「貴方がそのように気の効いた台詞を思いつくような人だとは到底思えません。」
「人を我儘野郎みたいに言うんじゃねぇ!俺だって気の効いた台詞の一つや二つ言えるんだよ。」
論点は先程アリスが言ったあの一言。まるで初代アリスを髣髴とさせるようなその言葉に俺は迂闊にも、こう、何と言うか満たされたようなそんな気分になったのだ。それ程に俺はその言葉を欲していたのだから。
しかしそれは一時のもので、アリスには俺の記憶を見られているという事もあり、もしかしたらアリスが俺の記憶にあったアリスの言葉を使ったのではないかと言う疑問がで持ち上がってきた。
そして今その疑問に対して終止符を打つべく、俺とアリスは討論という名の水掛け論をしているという訳だ。
「どうですかね。人の頭の中を勝手に見るような人の言う事なんて信じられませんが。」
勿論双方に確実な証拠がある訳ではなく、自分の主張が正しいと言い張る事しかできない。それこそ互いに声を張り上げあうのみの無駄な徒労に過ぎないのだが、俺はこの水掛け論を続けていかなければならなかった。
こうでもしないと俺はアリスをいい奴だと見直してしまう。いや、アリスを見直す事は良い事だと思う。現にこいつが社長をも凌ぐ観察眼を持っている事は凄い事だと思っているし、不遜ながらも誰に対しても平等に扱う所もまた尊敬するべき部分だろう。
アリスが本音であの言葉を言った事くらいわかる。だからこそ、俺はそれを否定したいのだ。理由はなんて事は無く、その一言がとても嬉しかったなんて知られたくないと言う、そんな小さな見栄なのだけれど。
「ったく…もう話も済んだし、帰るからな。」
アリスは説得を諦めて帰る事に決めたらしい。もしかしたら俺が本気で疑っているのではないと気付いたのかもしれないと思いながら俺は立ち上がるアリスを引き止めた。
「あ、待って下さい。後一つ、聞きたい事があるんです。」
俺の言葉にアリスは驚いたような顔をした。もうすべて聞き終えただろうというように俺の顔をまじまじと見てくる。確かに、あの時のショッピングモールをきっかけに俺の中に発生した願いに関する疑問は片がついた。しかし他にも俺の中には疑問が残っている。
それは今日も見たせいか、いつもより強く俺の中を占領して離れようとしない。他の疑問、例えばどうしてあんなに俺の願いを叶えるのを焦っていたのかとか、そんな疑問を差し置いてこの疑問が顔を出す。
「何故、あんな顔をしていたのですか?」
俺の言葉にアリスははっとしたような顔をしてから、すぐにそれを取り繕った。まるでいつも通りのような表情を浮かべてこちらを見やる。
「何の事だ?」
自信に溢れたその表情は、俺にはわかるまいというその表れか。それとも作られたいつも通りの顔つきでしかないのか。どちらにしろアリスは表情を偽っている事に変わりは無いのだが。
「自分で気付いているでしょう。いつも貴方は寂しそうな顔をしますね。そしてその後に続くのは、この世界から貴方がいなくなる事ばかり…。」
俺の言葉が重なるにつれアリスの表情が曇っていく。表立って狼狽するような事は無いものの、微かに視線を泳がせて僅かに唇を噛み締める様に、必死に表情を取り繕うのに必死になっているのが良くわかった。
「もしかして、貴方は自分がこの世界からいなくなるのを恐れているのですか?だから私の願いを叶えるのに必死になって焦っていた…。いつかわからないタイムリミットが来る前に、済ませてしまおうと。」
一番最初の文を口にした途端にまるで何かの台詞のように俺の口から次の言葉が滑り出てくる。言葉にすると頭の中が整理されていくようで、パズルのピースが当てはまるように気になっていた疑問が次々と解けていく。勿論この言葉には確証なんてものは存在しない。ただ前後関係を考えると、そう考えるのが一番辻褄が合うのだ。
そしてその考えが正しいと言うように、アリスはあからさまに視線をそらした。それが推測を確証へと変えていく。
「どうして焦るんです?この世界は貴方の思うがままに進んでいくものだと、一番最初に私が説明したはずです。貴方が望めば、この世界にずっと半永久的に居続ける事だってできます。それなのに、どうしてそんな風に焦るのですか?」
俺の問い掛けにアリスは視線をそらしたまま俯いた。その唇が小さく何かを呟いたが、俺にはその声は聞こえない。ただその言葉を言っているアリスの顔はとても悲しそうだった。それが一体どうしてなのかわからなくて俺はじっとその横顔を見つめる。
「お前には、わかんねぇよ。」
小さく呟かれたその微かな声はどこか頼りなく弱々しい。アリスはそう言ってから顔を上げてこちらを見据えた。まるでそんな問い掛けをした俺を咎めるような鋭い視線に、俺は思わず怯む。
それを見逃さずにアリスは言葉を継ぎ足していく。
「この世界から居なくなるかもしれないって感覚が、お前にわかる訳ない。」
「だから、貴方が望むならずっと居られると言っているでしょう。」
駄々を捏ねる子供を窘める様に俺がそう言えば、アリスは首を横に振って再び視線を足元へと落とす。
離れたところにある外灯の光が俺とアリスの足元に影を作り出す。その影に見入っているようにアリスの視線はずっと下を向いたままだ。
「お前、この世界の仕組みを本当に理解してるのかよ。」
スゥと空気が一気に冷たくなるほど威圧感を帯びたアリスの声。それは怒りを抑えているかの様に震えていたが、抑えられたそれは怒りとは又違った、しかし怒りにも似た激情に近いものが感じられる。
アリスは日頃ふざけてはいても、その様な感情の起伏を出した事がない。その事に俺は多少驚きながらも初めてアリスと向き合えたようなそんな感覚に襲われていた。
「どういう事ですか?」
「わからないか?アリスはずっとこの世界には居られない。絶対に、いつかこの世界から去らなきゃいけない時が来る。いままでアリスを案内してきたお前ならすぐにわかると思ったけどな。」
そんな事は無いと、アリスが望むならずっと居られると再度そう言おうとして口を噤む。
確かにアリスが望めばずっとこの世界に居られるだろう。アリスの望むがままに形成されるこの世界は、アリスを拒絶する事なんてしない。それでも今までのアリスは必ず最後に自分の世界へと帰っていった。
アリスを導く者として、俺はその様を今まで何度も見てきたのだ。
「人の心なんて変わっちまう。今までのアリスと同じように、例え今の俺がどんなに望んでも、未来の俺は必ず元の世界に戻る事を願う。」
そう、皆いつも最後は己の世界へと帰っていく。あんなに楽しんでいたのに、あんなに笑っていたのに、ある日突然帰る事を決意する。それを毎回のように見送る務めの俺は、何となくその理由に気付いていた。
いつまでも居られるというのは原理上。それはあくまでも理想論であり、現実的に考えればアリスには戻るべき家があり家族があり友人がある。それらすべてを捨てる事など到底無理な話しだろう。
この世界はあくまでアリスから見れば仮初の世界。彼らのいるべき場所は、帰るべき場所は元の世界なのだ。それに気付いた時に、アリス達は遠かれ早かれ帰る事を決意する。
「貴方は気付いていたのですね。自分が居るべき世界を。」
だからこそ帰る前に願いを叶えたがっていたのだろう。そうでなければあの焦りは説明できない。そしてあんなにも自分が帰る事に執着していた事もだ。
「寂しい顔してるつもりはなかったんだけどな。例えしてたとしても誰にもバレない自信はあったし。」
そう言って口角を吊り上げて笑うアリスの目元には僅か哀愁が漂っていて、俺にはその笑顔が偽りのように見えた。いつも通り人を食ったような挑戦的な笑みだというのに、その様に感じるのは何故かと思いながら俺は一つの仮定に辿りついた。
もしかしてアリスはいつもこの表情を浮かべていたのか?この、悲しさを笑顔で覆い隠したこの表情を。だとすればずっとこの表情を浮かべていたアリスは、最初からこの事実に気付いていたのかもしれない。
いつか自分が帰らなければいけないという事を、最初から。
「あの、」
その仮定は確信でもあった。辻褄はピタリとジグソーパズルの最後の一ピースのように当てはまり、すべてが一直線上に並んだようなそんな気さえした。
「あぁ、そうだよ。全部最初から気付いてた。だからこんな茶番、とっとと終わらせて帰る気だったのに…」
アリスはそう言って俺の方を見た。苦笑交じりに見つめながら呟かれた言葉に俺は僅かに首を捻る。アリスの今までの言いようだとアリスはこの世界を気に入っていたはずだ。何せ、帰りたくないとあんなにも悲しそうに表情を濁すのだから。
なのに、アリスはこの世界を茶番と表現した。先程とは全く正反対の言葉に俺の頭は混乱する。
「どっかの誰かさんが凄く悲しそうな顔するもんだから気になっちまった。そのうちそいつの斜に構える態度にムキになって、段々この世界に対して本気で接するようになっていた。」
その誰かさん、とは間違いなく俺の事だろう。斜に構えているつもりは無いし、何よりその様な言動をした記憶は無いが、きっと俺の拒絶をアリスはその様に受け取ったのだろう。
「俺が悲しい顔をしてるんだって言うんなら、それはお前のせいだ。」
責めるような言葉ながらその声はあまりにも小さく、まるで拗ねた子供の八つ当たりのような印象すら覚える。
アリスの言葉を要約すると、最初は早々に帰るつもりだったのが俺に興味を持つ事でこの世界に本気で接する事になってしまった。だからこの世界に名残を感じるのは俺のせいだと。
「…それは最高の褒め言葉ですよ。」
この世界を気に入ってもらえるのは不思議の国の住人として一番の幸せだ。例えそのきっかけが俺の拒絶が理由だとしても、結果的にこのように言ってもらえるのはとても光栄な事に変わりは無い。
「でも楽しいからこそ、帰りたくねぇんだよ。」
楽しくなればなるほど別れは辛くなる。俺は今まで沢山のアリスを迎え入れ、送り出してきたからアリスのその感情を誰よりも一番理解しているつもりだ。
だから、いつまでもここにいられると、またそういう風に慰めるような言葉を口にすれば良かったのかもしれない。でもそれが気休めだと理解しているアリスにとってそれはただの無責任な言葉の一つだ。
だから俺はあえて現実を突きつける。
「時間が弛まず進むのと同じように、貴方も、いつまでも同じ場所にはいられないんですよ。」
俺の言葉にアリスはガバっとこちらを見る。目を丸く見開いて信じられないと言うような表情が、改めてその事実を突きつけられて呆然としているようなそんな風に見えた。
「この世界に入った以上、出て行くのは決まっている事なんですから。」
「…だから嫌だったんだよ。ムキになるのも、真剣になるのも。楽しくてもどうせいつか消えるんなら、そんなの無意味だろ。」
搾り出すような掠れた声が僅か上ずっているのに気付きながらも、俺はあえて知らないふりをした。泣き出しそうな横顔を視線から外し、まっすぐ前にあるジャングルジムを見つめたまま口を開く。
「ではこの数ヶ月は貴方にとって無意味でしたか?楽しくもなんともないものでしたか?」
俺の言葉に、アリスは違うと掠れた声で数度繰り返した。勿論それは俺も理解している。いつも斜に構えて生意気な口調で俺達と共に暮らしたこの数ヶ月、アリスは悪態をつきながらも楽しんでいた。
でもそれをあえて問いかけたのは、気付いて欲しかったからだ。
「例えいつか消えるとしても、楽しかったのならそれは無意味では無いと思います。記憶はちゃんと、貴方の中に残るはずですから。」
現実に帰ればこの世界とは断絶され、二度とこちらに来る事もできない。俺達と一緒にいたという形跡も証拠も何一つ存在せず、いつも通りの目覚めの朝がやってくる。その中で唯一消えないものは記憶だけだ。
形も何も存在せず、まして時間が流れるにつれて薄れていくそれに縋るのは傍から見れば浅はかな行為かもしれない。しかしそれが俺達を繋ぐ唯一のものなのだ。
「記憶なんて、いつか消えるだろ。」
「えぇ。でも人間は今まで経験した事のすべてを覚えているそうですよ。忘れていても、ちゃんとどこかに残っているそうです。」
まるでそれにしか縋れない俺達を嘆くように、アリスが大きく息を吐いた。実際、そんな事を考えていたのかもしれないが、顔を見ていない俺は推測する事しかできなかった。
「折角記憶に残すなら、楽しい方がいいでしょう?」
アリスが楽しいと思っているくらいに俺達も楽しくて、アリスが帰りたくないと思っているのと同じくらいに俺達も帰らないで欲しいと思っている。
俺達だって、好きでアリスと別れる訳じゃ無い。
アリスが帰る事は覆せない。それがこの世界の方程式だから、それに反する事はできない。ならばせめて楽しく今を過ごす事ができたらと、そう思うようになった。
「だからこの世界が『今の貴方』が必要だと思う場所、楽しいと思える場所ならそれでいいんです。」
折角の不思議の国の思い出を寂しいだけのものにして欲しくない。確かにアリスはいつかこの世界から抜け出さなければいけないけれど、だからと言って悲しい顔をして欲しくない。
「それに、世の中は楽しんだもの勝ちなのだからムキになって真正面から向き合うのも良いものだと、そう言ったのは貴方でしょう?」
俺の言葉にアリスは覚えていたのかと小さく感心したように声を上げた。しかし感心はすぐさま他のものへと変わる。苦虫を噛み潰したようにアリスは文字通り苦々しい顔をして、そのままの表情で俺を睨みつける。
揚げ足を取りやがって、そういう事は覚えているんだな、とかそういう感じの事を考えているのは明白だった。そこまで観察眼の無い俺でもこれくらいはわかる。
「真剣に取り組むからそれだけ楽しみも増えるのだと、そうも言ってましたよね。」
恨みがましい顔にわざと更に言葉を重ねてやればアリスは大きな溜息と共に肩を落とした。
「まぁ、言ってたな…確かに。」
語尾を濁しながらアリスがそう呟くのを見て俺はフッと口元を緩ませ、軽く伸びをした。夜風が軽く吹きぬけるのを感じながら、俺はまだ納得していないようなアリスの横顔を盗み見る。
「じゃあ、いつか来るサヨナラの時まで思い切り楽しんで下さい。…それが、私の願いです。」
願い、という単語にアリスは過敏に反応した。こちらを向くその目の淵が僅か赤みを帯びているのに気付かないフリをして一体どうしたのかというように首を傾げてみせる。
アリスは戸惑いながら首を横に振ってみせた。
「お前の願いは他の事だろ?初代アリスの記憶に埋もれたアレがお前の望みなはずだ。」
「いえ、あの願いはもういいんです。」
もう叶っているのだからと心の中で続けて俺は小さく苦笑した。
アリスの発したさりげない一言。彼にとって見ればそれはとても些細なものだったに違いないが、俺にとってはとても大きく、そしてとても嬉しい言葉だった。
その一言で俺は十分に救われたのだ。
「でも俺が納得いかねぇ。」
断固として拒否するアリスに俺は小さく溜息をつきながらベンチから立ち上がり、アリスの前に立った。一体何かと見上げるアリスに笑みを浮かべてこう言い放つ。
「では、頭の中を覗いてみますか?きっと同じ答えでしょうから。」
「もうやんねぇよ。これ以上不躾だなんだってレッテル貼られたくねぇしな。」
やれやれというようにアリスが言うその声にいつもの張りが戻る。口元にはいつも通りの不遜な笑みと、少々悪い口調を携えて。
アリスが立ち上がって、俺達はお互いに向き合うような体勢になった。僅か俺を追い越す身長に少々苛立ちながらも少し上の顔を見つめると、アリスが俺の横を通り過ぎる。
その瞬間、くしゃくしゃと頭を撫でられた。
「ありがとな。」
照れを隠すようにぶっきら棒に呟かれた小さな声は、夜風に煽られながらも確かに俺の耳に届いた。それに驚いて振り返れば、アリスはまたジャングルジムの元へとへと行き、そして足をかけて登り始めた。
「で、どうだ?」
突然の問い掛け。溌剌としたその声音にほっと安堵の息をつきながらジャングルジムへと近付く。
「どうって、何がですか?」
一体何の事を言っているのかと思っているとアリスはジャングルジムの途中の部分に器用に座ってこちらを見る。そして子供のような無邪気な笑みを浮かべて俺に手招きをした。
言われるがままに数歩近付くと、ジャングルジムへ登るように指示される。大の大人が、と言っても片方は高校生だが、そんな奴らが二人してジャングルジムに登っているのは中々に異様な光景ではなかろうか。
そう思いながらも、何か考えがあるのだろうと思ってジャングルジムを登り始める。
「あの時のお前は閉じこもってたから見えなかったもんとかあっただろ。で、自分でそれに気付いてその閉じこもった場所から出てきた。」
「大げさな表現ですね。そんな大層な事じゃありません。」
ただ単に、捻くれていた奴がちょっとだけ自分に気付いた。ただそれだけの事だというのに、アリスはまるで自分の事のように嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「立ってる場所が変われば、見える世界もちょっとは変わるもんだぜ。考えも同じだ。」
年下に諭されてしまうとはと思いながらも、確かにアリスの言う通りなので俺は素直に頷いてやる。正直な反応にアリスが驚いたというように眉を上げ、そして視線を公園へとむけた。
「俺もちっとは変われるかな。…お前の願い、ちゃんと叶えてやらねぇと。」
遠くを見つめるその目に、一体何が映っているのか俺にはわからなかった。でもその表情が哀愁を帯びたそれではなく、溌剌とした明るさに満ちているのは良くわかった。
「ほら、どうだ?いつもと違う視点は。」
肩を叩かれてふと振り返る。少しだけ視界が上にずれただけだと言うのにその場所から見る景色は、アリスの言った通り少しだけ違っていた。見通しの良い視界に俺は再び登り始めて天辺へと行き、腰を下ろした。
アリスは途中のところから俺の方を見上げて感想を待っている。そのまま視界が変わったと言ってやるのも癪なので、俺は会えて他の事を口にした。
「そうですね…強いて言うなら、こんな時間に大の大人がジャングルジムで遊んでいるなんて他の人から見たら異様な光景なのだろうな、とは思いましたが。」
俺の言葉にアリスは一瞬きょとんとした顔をしてから、まったくだと笑った。屈託の無いその笑みに俺は小さく言葉を付け足す。
それはもう、自分にしか聞こえないような小さな声で。
「それと、貴方が予想以上にお節介焼きだと気付きました。あと、予想以上に寂しがりだという事も。」
アリスはいつも俺達の傍にいた。まるで親鳥にくっつくひよこのようにいつの間にか後ろにいてすぐに俺達の輪の中に入ってくる。その様は寂しがりの子供のようですらあった。
いつか去ると知りながら俺達と関わるのは辛かっただろうに、それでもアリスは俺達の傍に居続けた。それほどまでに俺達はアリスに愛されていたのだと、そう思い込む事すら許されそうなほどに。
「さ、そろそろ帰りましょう。明日は月曜日ですから貴方も学校でしょう。」
そう、明日からも毎日は始まっていく。時間は止まらないし戻る事だってもちろん出来はしない。一日一日と迫っていく、いつ来るかわからないサヨナラの日。
その時までアリスが楽しく笑っていられたらと、俺はそう心から強く願った。


(c)Kyouzaki