5.
 煩いアラームは寝起きの悪い俺の意識を覚醒させる為のもの。それに何度も遅刻しそうだったのを助けられたというのに、今日はとてもその目覚ましが憎くてしょうがない。
 しかし、それでも朝はやってくるのだ。
 伸ばした右手でそれを止めると液晶に映された時間を確認する。同じ画面に表示された日付は今日が平日…つまり週の始めだという事を示している。こんな時に仕事に行くなんて、正直精神的に辛い。
 そうなった原因はよくわかっている。間違いなく昨日のアリスとの一件だ。ズカズカと人の中に土足で入り込んで、挙句記憶を引っ掻き回して。何が願いを叶えたい、だ。そんなのただ単に自己満足じゃないか。そんなものに付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。
 起きる事すら億劫だった。気分が重いと体も重くなる。まるで体中に鎖を巻かれて深海に投げ捨てられたような気分で、ベッドの中を不器用に泳ぐ。このままずっと眠っていたい。そして何もかも忘れてしまいたい。
 だからと言ってこのままずっとベッドの住人になる訳にも行かない。来月の生活費の為にも仕事に行かなくては。
 まるで芋虫のようにのそのそと怠慢な動きで毛布から抜け出ると、ため息を一つついてから立ち上がる。頭をしっかりさせようと、まずは洗面所へと向かって冷水で顔を洗った。
 冷たい水のおかげか、意識が急激にハッキリした。さっきまでのうだうだとした雰囲気を洗い流し、タオルに顔を埋める。
 顔を上げて、鏡に移る俺の顔。仏頂面でこちらを睨みつけている。睨むなら俺じゃなくてアリスの方だろう?お門違いにも程がある。
 俺はいつも通りに過ごしていればいい。願いを思い出す前のように、笑顔を浮かべて、普通に生活していればいい。そうすれば時間はかかるかもしれないがまた忘れる事ができるだろう。…願いも、記憶も、すべて。
 そう思った時、俺の口端がつりあがった。しかしその笑みはどこか達観した、笑顔とは程遠い表情のように見えた。
 変な笑顔しか浮かべない俺に苦笑する。先程よりは幾分かまともな表情になってはいるものの、冴えない顔だと言う部分では大して変わりはしない。笑顔が出来なくたって仕事に影響は無いから構わないが。
 それに、いざとなれば上手く笑える自信があった。必要に差し迫られれば否が応でもそのような表情になる。ただそれは文字通り、貼り付けたような笑みになってしまうが。
 居間に行くとトースターをセットした。その間にテレビを点けいつも見ている番組へとチャンネルを回して着替え始める。
 まるで何も無かったかのようだと思った。いつも通りの朝食に、いつも通りのテレビ。着替えの終り頃にトースターが音を立てるのもやはりいつも通りだ。  この時初めて、俺はこんな単調な世界を作ったアリスに感謝した。たかだか数ヶ月しかたっていないというのに、毎日同じような日々の繰り返しのお陰で随分と長い間それを繰り返していたようにすら思えてくる。
 いつも通りに過ごす事を望んでいる俺にとって、毎日がマニュアル化しているこの世界はうってつけだ。
「…まだ、大丈夫だ…」
 確かにショックは大きかったけれど、こうやっていつも通りの生活を送っている。だから何も問題は無い。昨日は疲れていた時にあんな神経を逆撫でされるような事をされたから、過敏に反応してしまっただけなんだ。
 そう言い聞かせながら席についてトーストをオーブンから取り出した。時間を間違えたのかいつもより明らかにこんがりと、いや、こんがりを通り越して茶色くなっていた。もう少し時間が長ければ間違いなく表面が炭化していただろう事は一見して見て取れる。
 『いつも』の枠からはみ出すようなそんなトーストを、半ば八つ当たりのように睨みつけると齧りつく。口の中に広がる苦味に眉をひそめながら、その味を消すように苺ジャムをこれでもかと盛り付けてそれを平らげていった。
 一通りの準備を済ませ、後は出勤するだけなのだが、時間が少し余ってしまった。後十分、一体何をしていようかと頭をめぐらせていたら、いつの間にか三分経過していた。
 この調子ならすぐに十分など過ぎてしまうだろう。そう思って暫くボーっとしている。何もせず、何も考えずただ座っているだけで時間が過ぎていくのなら、いっそこのまま夜になってしまえばいい。そうすれば何も考えず、何も思い出さず眠りにつけるはずだ。
 そんな空想が本当に現実になってしまえばいいと思っていたが空想はあくまで空想でしかなかった。俺が空想に期待している間にも五分経過していたらしい。そろそろ出勤しなくては。
「はぁ…」
 大きな溜息を一つついて椅子から立ち上がる。
 例え何があっても毎日はやって来る。そんな中で立ち止まったりはできないし、立ち止まったところで時間に押し流されるのなら自ら動き出した方が幾分かはマシだろう。
 頭を無理矢理ポジティブな方向へと持っていく。頑張る自分のご褒美に、今日の昼飯はちょっと高めのものを注文しよう。そう思うといささか気分も向上して鞄を持つ手にも力が入る。
 玄関を出て暫くすると、携帯が鳴った。慌てて携帯を開くとディスプレイに『社長』の文字が浮かんでいる。何故だかわからないが嫌な予感が脳裏を過ぎる。それが大体当たっているのだと薄々感づきながらも俺は通話ボタンを押した。
「おはようございます、稲葉です。」
 アリスからつけられた安直な苗字を口にする。電話の向こうでは社長が嬉々とした声で言葉を紡いでいた。
『先日のプレゼンの資料はまだ持っているか?』
「会社のノートパソコンに保存して有りますが。」
 俺の返答に社長がよしと小さく呟く。
『この間のプレゼンが話題になっているらしい。他社からプレゼンをして欲しいと依頼があった。十時までに準備できるか?』
 仕事が忙しくなるのは正直好きではないし、時間に追い立てられるのも好きでは無い。嫌な予感は当たっていた、が。これはチャンスでも在る。プレゼンが他社の間で噂になるなんて事滅多にない。それに関心を持たれている今この時を逃す手は無いだろう。
「社に着き次第早急に準備を始めます。資料は何部必要ですか?」
『とりあえず五十部でいいだろう。』
「了解しました。」
 忘れぬうちに部数をメモしようと鞄から手帳を取り出した。咄嗟に開いたページに走り書きでプレゼン五十部と記すと、丁度その上に書かれていた文字に目が止まった。
 昨日、アリスと一緒に行った店の名前と場所が書かれている。
『おい、』
 昨日の事を思い出してしまいそうになるのを遮ったのは社長の声だった。それを聞いて今が通話中であった事を思い出す。
「は、はい、何ですか?」
『時間が無い。今から走って会社に来い。』
 なんとも無茶な要求に俺は内心ブーイングをする。しかし社長はそれを知る由もなく、いや知られたら知られたで困るのだが…言葉を続けた。
『いつも遅刻で走っているんだ。今日走るくらい、大して難しくも無いだろう。』
 耳に痛い言葉。反論の余地も無く俺は短く返事をした。その時に、今日の昼にはケーキセットも追加しようと心に誓ったのは言うまでもない。


 プレゼンを希望した会社は面識の無い会社だった。新規顧客獲得のチャンスに、俺はいつもの何倍も緊張しながらも何とか無事にプレゼンを終了する事ができた。
 そして昼食。いつもより豪華なセットをケーキつきで!と意気込んでプレゼンに参加したはいいものの、緊張が緩んだ俺は一気に疲れが出てきて食事どころではない。それでも疲れた体に鞭打って車を帽子屋の店まで走らせたのだ。
「ようこそ暇人ども。」
 カランカランと軽快なドアベルと、からかうような声音。いつも通りの接客態度に苛立ちは最早無く、逆に心地が良いのだから慣れと言う物は恐ろしい。
 俺と社長は奥のテーブルへと着き、帽子屋は片手に水差しと片手にコップを持ってパフォーマンスのように高く掲げた水差しからコップへと水を入れてそれを俺達へと運んできた。
「どうしたウサ公、口から魂が抜けてるぜ。」
 半ばぼんやりしている俺に気付いた帽子屋が水を置きながら声をかけてくる。返事をするのも億劫な俺に代わって口を開いたのは社長だった。
「今日は新規顧客を得るか否かの瀬戸際だったからな。」
「へぇ、よくわからねぇが大変だな。」
 ぐったりとしている俺を一瞥してから帽子屋はメニューをテーブルの上に置いて去っていく。俺は水の入ったコップに口をつけてほぅと一息ついた。
 さて、今朝決めていた通り少しだけ贅沢なものを頼もう。これを励みに頑張ったようなものなのだと気を取り直してメニューに目を這わせたその時だった。
「今日は奢ってやる。」
 突然の言葉に俺は一体社長が何を言っているのか理解できなかった。間の抜けた顔で社長を見返すと小さく微笑みを浮かべながらメニューを俺の前に差し出す。
「急な依頼に対し、あれだけ完成度の高いプレゼンを提供できたご褒美だ。好きなものを頼んでいいぞ。」
 自分の財布ではなく他人の財布から出るのだと思うと逆に高いものは注文できなくなる。それに僅か落胆するも、プレゼンの出来を褒められて嫌な気分になる訳もない。まして社長のような常に完璧を求めるような人に認められるのはとても光栄な事だ。
 俺は暫くメニューを見つめてからいつものサンドイッチにする事にした。いつもよりちょっと高めのランチより、社長に褒められたその一言で今日の頑張りは十二分に報われる。
「私はこれにします。」
 いつも通りのそのセレクトに社長はお前らしいなと小さく呟いてからメニューを自分の方へと向けて暫く考え込んだ。そんな社長を横目に帽子屋がエプロンのポケットから伝票を取り出す。
「ご注文をとっとと決めやがれ。」
 伝票を片手に足をトントンと鳴らす帽子屋に社長はやれやれと言った様子でメニューを置いた。
「カルボナーラのスープセット。スープはコンソメで。あと食後にコーヒーのホットを、零さないように。」
「へいへい。零すな零すなって、耳にタコができちまう。」
 トントンと進む会話の終わりに帽子屋が俺に視線を向けた。そして俺が注文を言う前に伝票にペンを滑らせていく。
「お前はいつものサンドイッチだろ。」
「はい。」
 さっきの会話を聞いていたから注文がわかっていたのだろうが、せめて発言する事くらい許して欲しいものだ。そんな不満を口に出す事無く結局頷いてしまう自分に少々落胆しながら再びコップに口をつける。
「以上でよろしいんだろうな?」
 いいのかと問い掛けながらも返答を聞かずにすぐにカウンターの中へと去っていく帽子屋。昨日の真剣さとは打って変わって飄々とした雰囲気を持っている。
 昨日、という単語を考えた瞬間に俺の頭の中にまるで走馬灯のように昨日の出来事が甦ってくる。
 願いが見えないと、そう言ったアリス。俺がこの世界を気に入っていない理由を知る為に、俺が何を考えているのかを知る為に…俺の願いを知る為にアリスは俺の頭の中を覗いた。願いが見えないからと言って俺の中を隅まで見透かしたんだ。思い出したくない記憶まで丸ごと全部。
 アリスは元々無礼な奴だったけどそこまで酷い奴ではなかったはずだ。それが変わり始めたのは確かあの時、公園で話した時だ。俺のやっている事を世界への依存だと言い放ったアリスに俺は憤慨したが、改めて今考えるとその時からアリスは世界にあわせて自分を演じる事で逃げに走る俺に気付いていたのでは無いだろうか。
 いや頭の中を読めるアリスの事だ、きっと気付いていたに違いない。世界の一部になる事でわざと自分を押し殺し、願いを記憶の向こうに追いやっていた俺に気付いていたのだ。そう考えればすべて辻褄が合う。
 あの晩からアリスはずっと俺の願いを探していたのだ。あの公園で話していた内容は先程の世界の依存発言意外にもきっと願いを知る為の言葉が罠のように所狭しと散りばめられていたに違いない。
 世界が俺を変えるんじゃなく俺が世界を変えるとか、そんな言葉、あの時の俺はわからなかった。しかし俺の『願い』に執着しているアリスから推測するに、俺が世界を変えられると説得する事で記憶の向こうに封じた叶わない願いを引きずり出そうとしていたのかも知れない。
 そう思うと本当に下らない。あんな小さな願いに躍起になるなんて。認めて欲しいなんて、そんな無駄な事。
「どうかしたのか?」
 突然声をかけられてハッとする。コップに口をつけてそのままの状態だった俺を社長が怪訝そうに見つめていた。それに気付いて慌ててコップをそこに置こうとするも、手が滑って落としそうになるのを必死に抑えてコースターの上に見事着地させる。
「すみません、少しぼーっとしていました。」
 俺の返事に社長は不満そうに眉根を寄せる。そしてふっと口の端を吊り上げてあくどい笑いを浮かべた。そんな嘘は通じないと言外に言われたような気がして俺は思わず身構える。
「口元に物をやるのはお前が何か考えている癖だったはずだ。昔は爪だったな。」
 やはり社長の観察眼は鋭い。それとも俺が思った事がすぐに表面に出てしまうのか。どちらにしろ結論は変わらない訳だが。
「何かあったみたいだな。」
「はい、少々…」
 語尾を濁す俺に社長はそうかと小さく呟くだけに留めた。それ以上何かを聞く事も無く、興味がないというようにバックから取り出した経済新聞へと目を向ける。それは一見したら冷たい反応かもしれないが、話したくないなら話さなくて良いという社長なりの気配りなのだろう。
 正直、今の俺には昨日あった事すべてを口にする勇気は無かった。折角いつも通りの日常を送ろうとしているのにわざわざそれを思い出す必要性も無い。  暫くの沈黙が俺達の間を支配する。聞こえるのはカウンターの奥にある調理台から奏でられるフライパンや鍋の音だけだ。
「そう言やぁさ、」
 沈黙を打ち破ったのは帽子屋だった。グラハムのパンを切りながらこちらに声をかけてくる。後ろでは鍋がシュンシュンという音とフライパンの何かを炒めるような音が微妙な不協和音を刻んでいる。
「チェスマスターの就職が決まったらしいぜ。」
 その言葉に俺と社長は同時に驚きの声を上げていた。余りの驚きに、『は』と『え』の中間の音を出してしまったがそれよりも何よりも耳に入った情報に脳が追いつかない。信じられないと言うように数度脳内で反芻を繰り返してから俺は漸く口を開いた。
「本当ですか?」
「本当も本当だって。この間のチシャの御神託通り、大手のゲーム企業に大抜擢だとよ。」
 無職から一気に大手企業たぁ世の中どう転ぶかわかんねぇなと付け足して、帽子屋がパンの間に何かスライスした肉を挟んでいく。レタスがたっぷりと入るのを確認して俺はよし、と頷いた。
「就職祝いに何か買ってやるか。」
 経済新聞に目を戻しながら社長が小さく呟く。それなら俺もと同乗しようとした時、それよりも早く店の扉が勢い良く開かれた。
「僕もお祝いしたいですっ!」
 でた、三月ウサギ。一体いつから話を聞いていたのか知らないがこのタイミングの登場が計ったとしか思えないのは俺だけでは無いだろう。
 元気に店に入り込んでちゃっかりと俺達と同じテーブルについてから三月ウサギは社長にペコリと頭を下げた。
「女王様お久しぶりですぅ〜。昨日お店の外を歩いている時に見つけたから声をかけようと思ったんですけど、王様と一緒でとても楽しそうだったんでやめちゃったんですよ〜」
 ついて早々のマシンガントークに俺と社長は圧倒される。社長は暫く三月ウサギを凝視してから俺に小さく耳打ちしてきた。
「こいつは三月ウサギか?」
「はい、そうです。」
 自己紹介も忘れて話しに現を抜かす三月ウサギの後ろに、片手にサンドイッチの乗った皿ともう片手にカルボナーラと小さなサラダボールを器用に持った帽子屋が立っていた。一方的なお喋りを止めようとしない三月ウサギを止めるように軽く手の甲でその頭をコンと叩いてから品を並べていく。
「お前は喋りすぎなんだよ。少しは自重しろ、自重。」
「わかりましたっ。これから暫くはあんまり喋り過ぎないようにします。あ〜でも僕から喋る事を取ったら何も残らない気がしちゃうんですけど、それってアイデンティティの崩壊になりかねませんかぁ?」
 きっと三月ウサギは自重と言う言葉も自分が喋りすぎだという事もわかっていないに違いない。助けを求めるように帽子屋に視線を送るが首を横に振られてしまった。三月ウサギのマシンガントークは傍若無人の帽子屋でも手に負えない代物らしい。
「折角だからよ、皆で就職祝いのパーティーやんねぇか?この店貸し切ってドーンとさ。」
 あえて三月ウサギの言葉を無視して話を続ける帽子屋。無視をしても良いのだろうかと思っていたが、三月ウサギは自分の話しに夢中になってこっちで違う話をしている事に気付いていなかった。この世界になってから会わなかったので忘れていたが、いつもこの二人はそんな感じの成り立っていない会話をしていたのだ。
 こちらの世界でも尚健在のそれに半ば感心しながら俺は話しに参加した。
「チェスマスターはお祭り好きですからね。きっと喜ぶと思います。」
 というよりこのメンバーは大体お祭り好きなのだ。特に帽子屋と三月ウサギは元の世界では毎日のようにパーティーを繰り返し、それはもう浴びる程に紅茶を飲んでいた。というより紅茶を零すのが趣味の帽子屋は実際に紅茶を浴びていたのだが。
 頭の中にふと、この間の紅茶塗れになった事件を思い出した俺はカッパを持ってきた方がいいかもしれないと思った。帽子屋の暴走は一度始まったら止まらない。三月ウサギなんて目じゃ無いほど暴走し、そして最後は遊びつかれてすぐに眠りについてしまう。
 その様な惨劇は何としても食い止めなくては。
「紅茶戦争はするなよ。」
「ちぇ。いいじゃんか、ケチ。」
 社長に釘を刺されると帽子屋はつまらなそうに声を上げる。不満そうなその声に社長は首を横に振り頑として譲らない。
 ここを譲ったら折角のパーティーが凄い事になってしまう。それこそまさに紅茶戦争だ。
「俺としては紅茶戦争が一番のプレゼントなんだがなぁ…」
 未だ納得していないという様子でごねる帽子屋に社長が小さく溜息をついた。趣味という物は人それぞれだがここまで来ると凄いものがあるな。
 呆れながらもサンドイッチに目をやると、挟まれていたのは薄く切られたローストビーフだった。一口頬張ると何重にも重ねられたビーフの食感とみずみずしいレタスがいいコンビネーションを組んでいる。こんな変人が作ってるとは思えない程の出来栄えだ。
「じゃあ帽子屋さんの誕生日プレゼントは紅茶戦争ですねっ。皆で紅茶を掛け合いましょう。」
 突然会話に入ってきた三月ウサギの発言に俺は思わず食べていたサンドイッチが肺に入りそうになってしまい大きくむせる。そんな俺に気付かず帽子屋は三月ウサギの提案に満足そうに頷いていた。
「たまには良い事言うじゃねぇか!よっし、今年の誕生日パーティーは紅茶掛け大会で決定だな。」
「あの…」
 このままでは話がずれてしまう。そう思った俺は水で無理矢理サンドイッチを飲み下してから息を整えて声を掛けた。声を掛けられた二人はきょとんとした様子でほぼ同時に俺を見てくる。
「その話は又今度にして、とりあえず今はチェスマスターさんのパーティーについて考えませんか?」
 根本的な解決にはなっていないが、乗り気になった帽子屋を止める事はきっと誰にもできないだろう。だからせめて話しの筋を戻す事しか俺には出来なかった。
 我関せずというようにカルボナーラを食している社長がチラリと俺の方を見てから良くやったという風に小さく頷く。そんな暇があったら社長自ら彼らの話しの筋を直してくれればいいのにと思ったが、口にしたら怒られそうなのでやめておいた。










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